譲り受けた箱、選んだ最初の一枚
譲り受けた古いステレオが、部屋の隅で静かに存在を主張している。 この重厚な機械に命を吹き込む「最初の一枚」として、私はジョアン・ジルベルトの通称『ホワイト・アルバム』を選んだ。ヤフオクで手に入れた、歴史の詰まった盤だ。
「三月の雨」が切り裂く静寂
レコード針を落とした瞬間、すべてが止まる。 一曲目「三月の雨(Águas de Março)」のイントロ。ギターと歌声、ただそれだけの最小限の音色が、夜の空気を一変させる。
そこにあるのは、心地よい静寂だ。 これまで聴いてきた音楽とは一線を画す。ジョアンの囁きは、耳ではなく直接魂に触れてくる。夜がこれほどまでに静かで、そして饒舌であったことに、私は初めて気づかされた。
満たされる心、不要なもの
この音色に身を浸しているとき、私の心は完全に満ち足りている。 かつての習慣だった「喉を潤す一杯」など、今の私には全く必要ない。ジョアンの奏でるリズムと、古いステレオが紡ぎ出す空気感。それだけで、夜を過ごすには十分すぎるほど贅沢だ。
本物の美しさに触れたとき、人は余計な刺激を求めなくなる。 この静寂こそが、今の私に必要なすべてである。
